Q&A
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Q4.
変形性膝関節症の診断を受け、ヒアルロン酸の注射を受けたが膝の痛みが改善しない。何か他に治療法は?+ー
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Q.
膝が痛くて歩行が不自由になり、整形外科で変形性膝関節症の診断を受け、ヒアルロン酸の注射を受けましたが膝の痛みが改善しません。何か治療法はありませんか?
A.膝の痛みは、従来より、膝関節の軟骨が摩耗して骨と骨が当たって刺激されることによって起こる変形性膝関節症が原因と考えられてきました。しかし、20年ほど前、膝の軟骨下の骨には神経(痛み刺激が作用する侵害受容器)は分布していないことが分かりました(参1)。米国の整形外科学会は数年前にヒアルロン酸の関節内注射は推奨しないと表明しました(参2)。
それに代わって言われるようになったのが膝関節の炎症説です。しかし、関節リウマチや感染による膝関節炎の場合、炎症産物により濁った関節液が貯留するのに対して、これらの炎症による疾患を除く一般の膝の痛みの場合、関節液の異常な貯留が認められないことが多く、関節液の異常な貯留が認められる場合でも正常な関節液であり、澄んだ褐色を呈しています。このような場合の膝の痛みは、炎症ではありません。
このように、一般にみられる多くの膝の痛みは、膝関節の軟骨が摩耗することにより骨と骨が当たって刺激される痛みではないので、手術療法の適応は慎重に考慮されなければなりません。
また、炎症でない場合もあり、消炎鎮痛剤やアセトアミノフェンの効果が乏しいことがあります。これらの鎮痛剤は急性炎症疾患に使われる薬であり、急性炎症は自然治癒力により1か月ほどで終息しますので、それまでの間限定的に使用する薬剤です。炎症ではない膝の痛みに、たとえ効果があったとしても漫然と長期投与を行っていると、いずれ効果がなくなる可能性があります。本来の治療(後述)を行いながら短期間限定的に使用するなら構いません。もちろん副作用がないならの話ですが。それ以外の薬物、リリカ(プレガバリン)やトラムセット(トラマドール・アセトアミノフェンの合剤)、抗うつ剤(SSRI、SNRI)も投与は慎重に検討する必要があります。
一般にみられる膝の痛みは、筋膜などの結合組織(Facsia)の病変に基づいて、侵害受容器が過敏になって起こる痛みが含まれている場合があり、慣例的に筋膜性疼痛と呼ばれています。過敏になった侵害受容器(トリガーポイント)が痛みの発生源(発痛源)ですので、侵害受容器の過敏性を改善させることにより鎮痛できる可能性があります。
侵害受容器が過敏になるのは、筋膜などの結合組織(Facsia)の病変に伴う血流不全により発生した発痛物質が侵害受容器を刺激することが原因である場合があり、その場合、Facsiaの血流不全を改善させる治療(Facsiaリリース)を行います。(詳しくはコラム「筋膜性疼痛の発生メカニズムと治療」をごらんください。)
膝の痛みを引き起こす筋は様々あり、問診(痛みがどういう動作や姿勢で発生するかなど)や触診(指圧による痛みの誘発など)により診断します。 ちなみに、保険適応を受けているトリガーポイント注射は、以前行われていた局所注射と同じものですので、効果は限定的となる場合があります。
(参1)臨床医のための痛みのメカニズム 改訂第2版(横田敏勝著 南江堂 1997年6月25日)P.113
(参2)米国整形外科学会の変形性膝関節症治療に関する臨床診療ガイドライン 改訂版(2013年6月4日)
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Q3.
本来のトリガーポイント注射とは?+ー
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Q.
肩凝りや頭痛がひどく、ペインクリニックを受診し、筋膜性疼痛症候群の診断でトリガーポイント注射を受けていますが、効果がみられません。
インターネットで調べてみると、トリガーポイント注射は筋膜性疼痛症候群の治療法であると書かれていますが、何故効かないのでしょうか?A.「トリガーポイント注射」という言葉の、本来の意味
トリガーポイント注射とは本来、筋膜性疼痛症候群の治療として、痛みの発生源であるトリガーポイントに局所麻酔剤を注射する方法です。ところが・・・
わが国で筋膜性疼痛症候群という病名が知られていなかった1994年。 トリガーポイント注射という鎮痛方法が、
「圧痛点に局所麻酔剤あるいは局所麻酔剤を主剤とする薬剤を注射する手技」(圧痛点・・・指などで圧迫したときに強く痛みが出る点)
という定義のもとに、健康保険で認可されてしまいました。
この健康保険の適応となったトリガーポイント注射は、高額の「硬膜外ブロック」の件数を減らすために局所注射の代わりとして健康保険の適応を受けたもの(参1)。
よって、筋膜性疼痛症候群とは全く別物なのです。間違った概念に基づく「トリガーポイント注射」の落とし穴
以上のような経緯でトリガーポイント注射は健康保険の適応を受けたので、当時の書物では筋膜性疼痛症候群の治療法として述べられていません。 特定の疾患の治療法としてでなく、神経ブロックと同様に鎮痛のための一手技として治療の項目に記載され、注射部位についても、「患者に痛みのいちばん強い部分を指先で示してもらい、施術者が同部を指で圧迫して策状硬結として触れる過敏点を確認する」 と述べられています。
これはつまり「患者に痛みの一番強い部位」を聞いてそこに注射する、ということで、ここにこの間違った概念に基づくトリガーポイント注射の落とし穴があるのです。本当の「痛みの発生源」
患者さんが訴える痛みには、うずく痛み(安静痛)や体を動かした時の痛み(運動時)があり、これらの痛みを関連痛と呼びます。
関連痛は、筋膜の病変(重積、癒着)の中に存在するトリガーポイントという部分から発生します。
ところが人の体とは不思議なもので、多くの場合痛みの発生源であるトリガーポイントは、患者さんが関連痛を感じる部分から離れた場所に存在する場合があるのです。ということは・・・
「患者さんが指先で示す痛みが一番強い部位」は、患者さんが自覚している関連痛の場所である場合があります。
治療として注射を行わなければならない痛みの発生源であるトリガーポイントの場所を、患者さん自身は気づいていない可能性があります。
関連痛の場所に認められるのは一般的に「関連圧痛」という痛みであり、つまりこの痛みを感じる点は「痛みの発生源」ではないので、ここに行われる注射は「トリガーポイント注射とは呼べませんし、一時的な鎮痛効果が認められたとしても、筋病変を改善させる効果は効果は期待できない可能性があります。(参1)プライマリ・ケア ―地域治療の方法― 松岡 史彦 小林 只/著 メディカルサイエンス社
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Q2.
椎間板ヘルニアに硬膜外ブロックが効かない場合があるのはなぜ?+ー
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Q.
数年前から慢性の坐骨(ざこつ)神経痛があり、MRI検査を受け椎間板ヘルニアの診断を受けています。手術をするほどではないということで、整形外科で硬膜外ブロックを受けていましたが、最初の頃はよく効いていたのに、最近はだんだんと鎮痛期間(痛みの治まる期間)が短くなり、痛みの程度も強くなってきました。今回硬膜外ブロックを受けた時はほとんど鎮痛されなかったのですが、MRI検査の所見は以前と変わっていません。痛みがとれないなら手術をしましょうと言われましたが、どうしたらいいでしょうか。
A.椎間板ヘルニアでは、程度の大きい・小さいに関わらず、慢性の腰痛や腰下肢痛(医者の言う坐骨神経痛のこと)の原因ではない場合があります。慢性の腰痛や腰下肢痛の原因は筋膜性疼痛症候群である場合がありますので、Fasciaリリースにより改善できる可能性があります。
椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛では、脱出した椎間板により圧迫された神経が炎症を起こして痛みを起こすと考えられ、炎症を抑えるステロイド剤を用いた硬膜外ブロックが治療として行なわれてきましたが、現在では、神経は圧迫されても炎症を起こして痛みの原因となることは稀である可能性が指摘されています。(参1)。
硬膜外ブロックで用いられたステロイド剤は、次のようにして痛みに作用すると考えられます。
・血液に吸収されたあと心臓に戻る
↓
・原因となっている筋膜の病変(重積、癒着)に到達する
↓
・痛みに関与するプロスタグランディンという物質の産生が抑制される
↓
・筋膜痛の鎮痛が得られるけれども、慢性化した筋膜痛ではこのプロスタグランディンが関与しない痛みに移行している場合があり、次第に効果が減弱する可能性があります。筋膜性疼痛症候群では、筋膜を中心としたfascia(重積、癒着)に基づいて痛みが起こりますが、ステロイド剤はこの筋膜の病変を改善させる効果はありません。
硬膜外ブロックが効かなくなった腰痛、下肢痛でも、Fasciaリリースにより痛みを緩和できる可能性があります。
(参1)臨床医のための痛みのメカニズム 改訂第2版(横田敏勝著 南江堂 1997年6月25日)P.213
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Q1.
腰痛で受けていた硬膜外ブロックが最近効きにくくなったのはなぜ?+ー
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Q.
数年前からぎっくり腰をくり返しています。ペインクリニックで硬膜外ブロックという治療を受けていますが、最初の頃はよく効いていたのに、最近は段々痛みがとれる期間が短くなり、ぎっくり腰の程度も強くなってきました。今回ぎっくり腰を起こして硬膜外ブロックを受けた時はほとんど痛みがとれませんでした。MRI検査では特に異常がなく、他に治療法はないと言われて困っています。
A.慢性腰痛や繰り返す腰痛の多くは筋膜性疼痛症候群の可能性があり、治療としてFasciaリリースなどが行われます。
ところが、このような腰痛に対して、ペインクリニックや整形外科では、一般に硬膜外ブロックが行なわれ、薬液には多くの場合、局所麻酔薬とともにステロイド剤が用いられます。
このステロイド剤では、痛みに関わるプロスタグランディンという物質の産生が抑制されることにより筋膜の痛みがとれます。
しかし、慢性化した筋膜痛ではこのプロスタグランディンが関わらない痛みに移行している場合があり、ステロイド剤を用いた硬膜外ブロックでは痛みが取れにくい場合があります。筋膜性疼痛症候群では、筋膜を中心としたfascia(重積、癒着)により痛みが起こります。ところが、ステロイド剤にはこの変化を改善させる効果が乏しいのです。よって、ステロイド剤を用いた治療を続けても、腰痛の再発をくり返し、徐々に悪化する場合があります。
しかし、悪化して硬膜外ブロックが効かなくなった腰痛でも、筋膜性疼痛症候群の治療法であるFasciaリリースにより痛みを改善させられる可能性があります。