8.侵害受容器が感作されることによって起こる筋膜性疼痛

侵害受容器が感作されることによって起こる筋膜性疼痛とは、次のような特徴を持った痛みです。


① 侵害受容性疼痛と同様、侵害受容器を介して発生する。ちなみに、侵害受容器は筋膜(筋を覆っている膜状の結合組織)に存在しており、臓器である筋には存在しないため、筋では痛みは発生しない。


② 侵害受容性疼痛が、組織損傷を誘引として、侵害受容器に加わった刺激によって損傷した組織を修復するために血流が増加するのに対して、筋膜性疼痛は、様々な筋への負荷が原因となって、筋組織に限局性の(恐らく)反射的収縮が起こり、それに伴う筋膜の重積(しわが寄ること)・癒着によって筋膜の慢性的な虚血(血流が低下)が起こるという、侵害受容性疼痛とは対照的な病態である。


③ 侵害受容器の感作とは、虚血(血流が低下)によって発生した発痛物質の作用により、侵害受容器が過敏になることである。(図4)(参2)


④ 過敏になった侵害受容器は、痛みの閾値が低下し、正常なら痛みが発生しないような軽い刺激(例えば指で押す刺激)で、刺激した部位に痛みが起こる。


⑤ 過敏になった侵害受容器の存在する筋を動かす程度の刺激でも痛みが発生するが(運動痛という)、その痛みは、痛みの発生源である過敏になった侵害受容器から離れた領域に起こる(関連痛という)。(図4)


⑥ また、その筋の緊張が高まる姿勢をとった時には、それが刺激となって持続的な痛み(自発痛)が起こるが、その痛みも、痛みの発生源である過敏になった侵害受容器から離れた領域に起こる関連痛である。(図4)


⑦ 侵害受容器を感作する発痛物質が産生されるメカニズムは、筋収縮に伴い血管が圧迫されて血流が低下すると、筋膜中に存在する結合組織細胞(線維や基質を産生する細胞)に障害が起こり、その障害部位から発痛物質が遊離すると考えられている。(図4)

侵害受容器を感作する発痛物質が産生されるメカニズム

(図4)


⑧ 筋膜の重積・癒着という虚血性病変が形成される原因としては、次のような様々なものが考えられている。
・筋の使い過ぎ:テニス肘、腱鞘炎と診断されるような痛み
・筋を動かさないこと:寝違え、ギブス固定後の痛み、同じ姿勢を長時間続けた時の痛み 
・筋への急激な負荷:捻挫、むち打ち現象による痛み
※筋によっては、心理的要因も関与する可能性


⑨ 筋膜の虚血性病変は、まず痛みを発生しない潜在性病変として形成され、潜在性病変に様々な要因が作用して活性化し、活動性病変となって初めて痛みを発生する。(図5)

(図5)


⑩ 潜在性病変を活性化する要因には、次のような要因が考えられる。
・心理的要因:心理的ストレスによる不安、抑うつ
・身体的要因:睡眠不足や働き過ぎによる身体的疲労
・環境要因:気温の低下
・筋に対する直接の負荷:使い過ぎ、長時間の同一姿勢

(参2)トリガーポイントに関する研究の現状と諸問題
川喜田 健司・他 日本歯科東洋医学会誌第21巻第1・2号 2002年