「痛み」とは

痛みには、「侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)」と「神経障害性疼痛」の2つがあります

侵害受容性疼痛とは

知覚神経の末端の痛み刺激を受ける部分(侵害受容器)が刺激されて起こる痛みです。
炎症や打撲による急性の痛みや、トリガーポイントによる痛みがこの痛みです。
これらの痛みは一般に用いられている消炎鎮痛剤によりしずめることができますが、消炎鎮痛剤は対症療法(表面的な症状をやわらげることを主な目的とする治療法)であり、慢性の痛みに漫然と用いるべきではありません。トリガーポイントによる痛みは、鎮痛剤が効かないものも多く、その場合トリガーポイント治療を行うことによりしずめることができます。

神経障害性疼痛とは

侵害受容器への刺激がないにもかかわらず、知覚神経の神経線維の途中で異常な電気的興奮が起こるために生じる痛みです。
炎症(たとえば帯状疱疹)や外傷によって神経の構造が破壊された場合に起こります。したがって、多くの場合そのような既往が存在しており、頻度としてはそう多くありません。この痛みは消炎鎮痛剤が効かず、しずめるのが難しい痛みです。
しかし、「神経障害性疼痛」の場合でも「筋筋膜性疼痛症候群」を併発していることが多く、トリガーポイント治療で痛みが軽くなることがあります。

また、「神経障害性疼痛」の診断を受けていても、実は「筋筋膜性疼痛症候群」のことがあります。
たとえば、帯状疱疹にかかった後に痛みが慢性化すると帯状疱疹後神経痛の診断を受けますが、その場合でもトリガーポイント治療を行うことにより痛みが改善するものも結構あり、結果的に筋筋膜性疼痛症候群であったと考えられます。
癌の痛みでモルヒネによってしずめられない痛みは筋筋膜性疼痛症候群のことがあり、このような場合はトリガーポイント治療によってしずめられます。

「不定愁訴」とは

自律神経(意識と無関係に血管・心臓・胃腸などの内臓を働かせ、自動的に体の機能を調節している神経)が関係していると強く疑われるような症状を始めとして、様々な身体的・精神的症状があるにもかかわらず、客観的な診断結果が不十分で、医学的な検査で異常が見られないため、病気の診断ができないものをいいます。

日本では、自律神経失調症という診断名が下されることが多いですが、自律神経失調症という診断は日本独自のもので欧米にはなく、日本でも正式な病名としては認められていません。
一般に症状の種類が多く、かつ不安定であるため、治療が難しく、対症療法的(表面的な症状をやわらげることを主な目的とする治療法)に精神安定剤などの向精神薬や鎮痛剤の投与が行われることが多いですが、改善が難しいのが現状です。

治療としてよく用いられている安定剤などの向精神薬は、症状を軽くすることもありますが、効果は一時的であり、あくまでも対症療法です。一時的であっても楽になるため、根本的な治療を行うことなく使い続けていると、依存性が生じ、人によっては耐性が生じる(だんだん薬が効かなくなる)ことがあります。耐性が生じると増量しないと効果がありませんが、それにはやはり限界があります。

また、投与を続けていると、人によっては慢性的な交感神経緊張状態におちいることがあり、症状をさらに悪化させることになります。そこで服用を止めようとすると、依存性のために禁断症状が出て苦しむことになります。

東洋医学の鍼治療との違い

の気の流れを促進して諸症状を改善する治療法(経絡治療と呼ばれる)です。

それに対し、トリガーポイント鍼療法は、トリガーポイントを刺激することにより、トリガーポイントから発生する痛みなどの諸症状や、筋病変である筋拘縮を改善する治療法であり、この二つは全く異なる治療法です。

筋筋膜性疼痛症候群とは

筋筋膜性疼痛症候群では、筋肉の組織にしこり状の病変が認められ、その病変の中に刺激に対して過敏な部位があり、指で押すと強い圧痛が起こると同時に、その周辺や離れた領域に広がる痛み(関連痛)が誘発されることがあります。その過敏な部位をトリガーポイントと呼びます。(図参照)

筋筋膜性疼痛症候群とは

筋筋膜性疼痛症候群とは、筋肉の組織に生じたトリガーポイントが、痛みやしびれ感・筋の脱力・関節の動きの障害・自律神経症状などの様々な症状を引き起こす症候群です。

しこり状として触れる筋肉の病変の多くは筋拘縮(筋が病的に収縮したもの)と呼ばれ、その部位では血流低下が起こっており、発痛物質(痛みを引き起こす体内化学物質)が蓄積しています。蓄積した発痛物質は、筋肉の病変部に分布する侵害受容器(知覚神経の末端にあり痛み刺激を感知する部分)を持続的に刺激して、侵害受容器を過敏な状態にします。その過敏になった侵害受容器が先に述べたトリガーポイントの本態です。

原因

筋病変の原因としては、筋肉の使いすぎ、姿勢による筋血流の低下、打撲や骨折などの外傷、帯状疱疹のような神経炎症性疾患、神経痛の存在、精神的緊張状態など様々な要因が考えられます。

また、精神的なストレスや慢性疲労、寒冷刺激など交感神経緊張をきたすような要因は、血管の収縮や筋緊張の亢進などを引き起こして発痛物質の蓄積を促し、筋筋膜性疼痛症候群の発症に関与することがあります。

症状

1.疼痛(とうつう)
運動時の、または自発的な痛みとして起こる関連痛、トリガーポイントの刺激によって起こる局所の痛み

2.異常知覚(しびれ感)・不快感
ジンジン感、ムズムズ感(むずむず脚症候群:Restress Legs Syndrome)

3.知覚鈍麻(感覚が鈍くなる)・知覚過敏(感覚が必要以上に敏感になる)

4.筋力の低下・関節が動く範囲の制限
よくつまづく、正座ができない、歩行障害、腕が上がらない

5.自律神経症状・臓器の機能異常(体性内臓反射)・固有知覚の障害
冷感・鳥肌・異常発汗、消化器症状(嘔吐・下痢・食欲不振)、耳鳴り、非回転性めまい(ふらつき)

診断

筋筋膜性疼痛症候群は、レントゲンやMRIなどの画像検査では異常が認められず、問診や触診などの基本的な診断方法によってのみ診断することができます。したがって、この疾患について十分な見識を持った医師のもとを受診する必要があります。

信頼できる施設に関してはMPS研究会のホームページをご覧ください。

Fascia(ファシア)リリースについて

痛みは、痛み刺激が作用する侵害受容器(知覚神経から末梢に伸びた神経線維の先端)が分布している所でしか発生しません。
ヒトの身体の中で侵害受容器が分布しているところがFasciaです。

「Fascia」に相当する日本語は「線維性結合組織」で、コラーゲン線維や弾性線維などのタンパク質により構成された、中胚葉由来の支持組織です。

Fasciaは、筋膜以外に、靭帯、腱、腱鞘、支帯、関節包、動脈周囲のFascia、傍神経鞘、脂肪体、皮膚の瘢痕などがあり、これらが痛みの発生源となり、Fasciaリリースの対象となります。
このような理由から、「筋膜リリース」という表現を「Fasciaリリース」に改めました。